『資本論』第1巻を読む II 第8回

第7章 剰余価値率

「シーニアの最後の1時間」でよく知られる章です。ちょっと長くなりますが、一回で読み切ります。

労働力の搾取度

剰余価値利率の定義[pgph 1-9]

第1章などとくらべるとわかりますが、この章であつかっているのは、けっきょく量的な関係なので、おおきな紛れはありません。ただ逆に、その背後にある概念は曖昧なまま受け入れてしまう可能性が高いので、少し用語の定義にちょっと気をつけて読んでみます。

  1. 前貸資本(価値) das vorgeschoßen Kapital(wert) [pgph 1]:C+V
  2. 増殖分 die Verwertung[pgph 1]:M
  3. 生産物価値 Produktenwert[pgph 2]:C+V+M
  4. 超過分 der Überschuss(生産要素の価値を超える)[pgph 2]:M
  5. 価値生産物 Wertprodukt [pgph 4]:V+M
  6. 死んだ労働 toter Arbeit ・ 生きた労働lebendige Arbeit [pgph 6]:
  7. 剰余価値率[pgph 9]:M/V
  • ① 超過分:「生産物価値 – 生産要素の価格」という現象形態 :「… として現れる」erscheinen
  • ② 増殖分: 前貸資本 c+v に対する増殖:投下資本に対する、一歩抽象化される
  • ③ 剰余価値:可変資本の増加分:目に見える現象の根底にある関係

目に見える「現象」からスタートしてその背後の関係にアプローチしてゆく、『資本論』の方法:これは冒頭の資本主義的生産様式における富は商品として「現れる」(商品で「ある」とはいわない。この点はハーヴェイが『資本論入門』で指摘していますが…)というところからはじまって、繰りかえし用いられきたもので、読書会にご参加くださっている皆さんは、もう、こうした独特の記述に、だいぶなれたでしょう。

この②から③に進むところでは、A「価値移転」説とともに、B「C=0」説があり、あとのBのほうは、シーニアを批判するときに、ちょっとマズいことになるんじゃないか、と思います。

  • 機械の価値について[pgph 2]:
  • £1054(機械)+ £312(原料)+ £44(補助材料)+ £90(v) + £90(m) –> £1000(機械)+ £590(生産物価値) というかたちで、結合生産として機械を扱うアプローチが註(26a)に示されている。
  • 一定量のVで、同時に「可変量」を表すことの困難を「生きた労働」というタームで乗り切ろうとしている。

搾取度という読み換え[pgph 10-14]

ここで、ポンド表示から労働時間表示に切り替えて、

  • 必要労働時間
  • 剰余労働時間
  • 搾取度

と剰余価値率を規定しなおす。

計算方法の要約と例解[pgph 15-19]

  • エンゲルスの工場の例
  • 小麦生産の例

生産物の比率的諸部分での生産物価値の表現[pgph 20-32]

  1. 30s = 24s(c) + 3s(v) + 3s(m)
  2. 60h = 48h(c) + 6h(v) + 6h(m)     <– 生産物価値の表現
  3. 20pd=16pd(c) + 2pd(v)+ 2pd(m) <-  生産物の比率的諸部分での生産物価値の表現
    12時間の生きた労働で20ポンドの糸を生産したのだから… と考えると[pgph 33]
  4. 12h =48/5h(c) + 6/5h(v)+ 6/5h(m)
    これをやったのが次にでてくるシーニア。
  • でも、この計算って変じゃない….じゃ、どこが、どう….?
  • [pgph 27.28]あたりを読むとわかると思います。
  • 要するに、綿なしに労働だけで糸が生産できるという、変な想定になっているのです。

すべての生産物は生きた労働の結晶だという観念は、注意しないとこの錯覚を生みます。先にC=0 としたことも要注意。また、すべての生産物が究極的には労働を投じれば生産できるという、前回どなたが指摘されていた「スミスのドグマ」も厳密に否定するのはけっこうたいへんです。議論してみましょうか?

シーニアの「最後の1時間」

数値例がごちゃごちゃしているので面倒ですが、要は…

  1. 原料や機械の摩損分Cが価値移転することを無視するから、
  2. 実際になされる労働時間 v+m が c+v+m に水増しされて現れ、
  3. この生産力が高まって見える最後の1時間で m が生まれるようにみえる。
  4. だから、この1時間が短縮されるで、剰余は消えてなくなることになる…

という話です。[pgph 33]の4番目の6/5h(m)が「最後の1時間」に相当します。
労働時間が6/5h短縮されると m=0 になっちゃう…

シーニアの例[pgph 34-5]:

  1. 10/23(c)+1/23(c’) + 1/23(v) + 1/23(m)
  2. 10/23(c)+1/23(c’) + 1/23(v) + 3/23(m)
    ただし、「約2600ポンドスターリングの流動資本を追加することによって」というのは..「原料および労賃に2万ポンドスターリング」これが「流動資本」。11.5 –> 13時間、つまり3半時間の増加で、流動資本の追加分は
    2万ポンドスターリング*3/23 = 約2600ポンドスターリングということでしょう。どうでもいいことですが…

  3. 10/23(c)+1/23(c’) + 0/23(v) + 0/23(m) 1時間の労働時間の短縮で純利得が消滅

  4. 10/23(c)+0/23(c’) + 0/23(v) + 0/23(m) 1時間半の労働時間の短縮で総利得が消滅

1労働時間でみれば[pgph 36]
4 3/4(c) + 4/4(v+m) = 5 3/4

このパラグラフのなかに「支払った労働と支払わなかった労働の比率」というのがでてきますが、この不払い労働という規定は厳密にいうと問題がでてきます。搾取論の筋からいうと、労働力は価値通りに売買されたので、不払い部分があるというわけにはいかないのです。これをいうと、労働全収権を唱えるリカーディアンソーシャリストと五十歩百歩になってしまいます。で、「私が、労働力の支払いではなく、労働の支払いというのは、諸君の俗語で語るためである」と弁解するのですが、マルクス主義者のなかにはこの「不払い労働」に強い印象をもつ人が多く、もし「ほんとは不払い労働なんてない」というと反発を感じる人が多いようです。マルクスはこのあたり、もっとそんな通俗的な資本主義批判じゃだめだ、と強く言っておいてほいいところです。

剰余生産物

富の高さの程度をはかるのは、剰余価値の相対的大きさ[prph 38]… というのは M/V のことではなくて、M/M’ のことでしょうか。このあと註の(34)でリカードの原理にふれ、雇用労働人口が多かろうと少なかろうと、純所得がいっていならおなじことだ、という趣旨のことを引用しています。

労働日[prph 39]

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